震災対策

聖号十念

ご無沙汰しております。
桜が駆け足で過ぎ去る姿に、諸行無常を感じる日々でございますが、
皆様いかがお過ごしでしょうか。

今回は、先日浄土宗東京教区青年会主催の「震災対策講習会」のご報告をさせていただきます。

東京教区浄土宗青年会の今期の会長は、
震災当初から、全会長とともに被災地へ頻繁に支援活動をなさっている方で、
来る関東、東海地方の震災にも地元寺院が率先して準備をしていこうという方針に
心を打たれたという経緯もあり、参加をさせていただきました。

当日は、大本山増上寺に、大変お忙しい中、2012年8月1日付で「東京都危機管理監」になられた、陸上自衛隊第10師団(司令部・名古屋市)前師団長の宮崎泰樹氏、また
「帰宅困難者対策本部主任」をお迎えいたしました。

私の従兄弟にも、自衛隊をお勤めしているものがおりますが、
堂々たる体躯、きっぱりとした目線、重みのあるお話ように、
なんだか適当なスーツ姿で座っている自分が恥ずかしくなる心持が致しました。
帰宅困難者対策本部の方も、柔らかなのにとても怜悧な印象で、
やはり背筋がぴんと伸びる感じがしたものです。

まず、動画とともに、事故当時から2年間の震災の流れを拝見しました。
震災当時の、あの動画を見るたびに心臓がぎゅうっと縮む感覚や、
涙がこみあげた思い出がよみがえり、少々辛かったのですが、
現 場で来る日も来る日も、数え切れないほどの物故者のお体を、師団長の手ずから素手で洗い続け、人員の足りない中で、全国の基地から首相の増員命令になんと か対応して予備役までも招集し、尽力なさった自衛隊の方々のお気持ちを思うと、ここで私がこれ見よがしに泣いて良いところではないと、こらえることができ ました。
日が経つほどに、どんなに丁寧に扱っても、損なわれてしまうご遺体のお話は、
とても想像が追いつくものではなく、「世の中には私などには及びもつかない苦しみがあるのだ」ということを、
己の無知を深く感じました。

同じ苦しみををまた繰り返してはならない。
そのために寺院は何ができるのか。

続いて、「もし関東地方に震災が起きた場合の予測状況」をお話いただきました。

地域によって被害状況が様々ですので、簡単にこの場で申し上げられないのですが、
規模が大変大きい震災になることが予測されるため、
「自衛隊は、震災発生時から3日間は、生存者の救助に全力で当たらせていただく予定です。
大きな怪我や病気のない方は、ご自分の備蓄で生活していただくようお願い致します」とのことでした。
また、「余裕のあるご家庭は、最低で家族3日分の食料と水、それと、それに1割程度、
困っている方を助けられるくらいの備蓄をお願いしております」だそうです。
私が子供の頃持たされたのは乾パンと防災頭巾で、どちらも扱いにくかった思い出しかありませんが、
今は大分技術が進んでいるとのことです。

インフラの整備の見通しの立たない状況ですと、なかなか必要量の見積もりが難しそうですが、
日持ちのするものを家に色々置いておこうと思いました。
(後日、近隣のお寺様にご相談したところ、かさばらない軍用食や、逆に味がおいしく、心を慰める和食のレトルトなど、
様々な備蓄品をご紹介いただきました)。

当山は設備も人員も多くはありませんが、保存の利くものを選んで備蓄を心がけようと思いました。

続いて、「帰宅困難者対策」について、お話を賜りました。
前段のお話で、ずっしりと考え込んでいる講習生に対し、快刀乱麻の勢いで、「自分が帰宅困難者になったときに困らないために」
何を準備したら良いかを明確にご説明いただきました。

いわく、東京で大震災が起こった場合、繁華街に遊びに来たお客様を中心に、14万人の帰宅困難者が発生します。
企業へ要請し、社員分の備蓄+1割は確保できているものの、
それでも震災が起きれば電力が途絶え、飲食店の生ものなどは傷んで3日はもちません。
では、出先で震災に遭った場合どうするべきか。

「帰宅困難者で困らないための注意点」
1、企業に出勤中の方は、なるべく動かず会社にとどまる。
  (人命救助のための車両が、人が多すぎて道路を通れなくなってしまい、人命が失われる)
  介護や保護が必須のお身内がいる場合は除きます。
2、身内への連絡手段を、携帯電話固定電話以外で2つは確保(twitter、facebook、LINE、掲示板、HPなど)
  (有事の際は、携帯電話の周波の9割は公的使用に徴用されて使えません)
3、役所は、法律上、携帯電話の充電には対応できない(税金の私的流用、横領にあたるため)ので、
  携帯電話の電池の予備は絶対に持ち歩くこと。特にスマートフォンなど、画面の大きいものは消費電力が高い。
4、外回りの多い人は、カロリーメイト等の栄養食品、ペットボトルの水1本、携帯電話の予備電源1つを最低持ち歩く。

「いざと言うとき一番困る人」は
○不恰好なのでかばんを持ち歩かず
○電池残量を気にせずずっとスマフォをいじっており
○震災が起きたら、という意識を全く持たずに繁華街に遊びに来る若者

だそうです。
常にお菓子を持ち歩いており、携帯電話はほとんど使わず、
キップが良く動じない奥様方は、電池さえ持てば最強ということですね。
ちょっと大変ですが、連絡手段だけは確保をお願い致します。「ワタシ ブジ」が打てれば大丈夫です。
逆にイケメンは余り調子に乗らないようにというお達しです。
また「普段、照れくさかったり、色々あったりで家族と没交渉のお父さんは、
震災後に急に家族が心配になり、無理やり帰ろうとすることが多いので、
そこはこらえて普段から家族と会話してください」とのことでした。
住職のモーレツサラリーマンぶりを見て育っているので、なかなか難しそうだなと思いました。

続いて質疑応答。浄土宗青年会より質問をさせていただきました。
木造建築の多い下町の組から、意識的な震災の取り組みについて、自治体とどう連携をとっていくべきか、
また、ヘリコプター操縦同士会から、支援物資を学校の校庭に落とすために自治体の許可が必要かどうか、など、
刮目させられる質問が多く寄せられました。
回答は自治体により様々な方針があるようで、要相談とのことでした。
ヘリコプターでの物資輸送という発想自体思い浮かんだこともありませんでしたので、
自分はつくづく世間知らずであると、少し落ち込みました。

ですが最後に、管理監より、お言葉がありました。
「私たち自衛隊は、自分の訓練職務を生かす形で、人を助けることはできます。」
「でも、助かった方々の、その後長年にわたる心の問題は、僧侶の方々にお願いするしかありません」
なるほどそうか、私にも役目があるのだ、と思うと同時に、
私に人様を支えることなどできるのだろうか、という不安も感じました。
私にはカウンセラーの資格もないし、最愛の家族を喪失した経験もありません。お話もあんまりうまくありません。
でも何かやらずにはいられないだろうという予感だけは感じることができました。

講習後、実際に、カロリーメイトと水と予備電池を購入し、かばんに入れたところ、とてもとても重たく邪魔なのですが、
邪魔だと思う時点で、震災大国に住んでいるという自覚が足りないのだ・・・と自分を戒めることにしました。
でもやはりかさばるので難儀しておりますが。
小ぶりなゆるふわモテポーチ、気持ちアップサイズしてカロリーメイトとスマフォ電池だけでもお持ちいただければ助かります。

自分に何ができるのか、ということについて深く考えた講習会でした。
企業の面接で同じことを考えた時とはまた違ったすがすがしさがありました。

このような機会をお与えくださった主催の皆様に対する感謝とともに、
勉強の時間を頂きました、当山諸壇家さま、ご信徒さま、霊園ご供養者さまがた、
諸般にわたりご協力頂いている大野屋様、スタッフの皆様がたに深く感謝申し上げます。

合掌