皆様こんにちは。副住職の石井綾月です。
本日は、「卒塔婆と彼岸」と題しまして、皆様が日ごろ建碑して下さる卒塔婆を中心にお話をさせて頂きます。
まずはご報告から。最初の画像をご覧ください。

本年の2月7日から8日にかけまして、住職の快気祝いを兼ね、30年以上ぶりにご本堂と客殿の畳表と障子を張り替えさせていただきました。畳を上げると床の白木が見事に白く、本堂の床は長年畳が守ってくれていたのだという心持になりました。2つ目の写真は、長年お世話になっている本堂と、檀信徒の皆様に感謝しながらお掃除をしているところです。3つ目は掃除中に見つけた様子で、これは単に竹の葉が散らばっているのではなく、窓の外に植えてある竹が本堂床下まで入り込んで、床板の隙間からなんとか芽を出そうと奮闘している様子です。窓際の隙間にはなんと緑の新芽が出ていました。命の力というのは大変なものですね。申し訳ありませんがお引き取りくださいということで、住職と一緒に切らせていただきました。めったに畳を上げることがなかったのですが、いろいろな発見があったというお話でございます。
さて、ここからが本日のお話、「卒塔婆」についてです。
下記の画像資料をご覧ください。こちら卒塔婆の頭にあたる部分です。当山では、割合大きめの、六尺の卒塔婆を建碑させて頂いております。

「卒塔婆」というのは、インドの古い言葉であるサンスクリット語の「ストゥーパ」という言葉がなまったものです。もともとは「積み重ねる」という意味で、転じてお釈迦様のお骨を収める仏塔、という意味になりました。お釈迦様のお墓はもともとお椀を伏せたような形なのですが、亡くなった後にお釈迦様をたたえてたくさんの塔が建てられました。有名な仏塔には仏様のお骨を一部分けて頂いてお納めすることがありましたので、仏の塔と書いて仏塔と呼ぶのでございます。
この仏塔、国によっていろんな形がありますが、日本で建てられたものの一例として、下記二つのような形のものがあります。

左側のほうは、松光寺の由来となった松光院殿様のお墓で、右側のほうは、勝手にお写真撮らせて頂いて申し訳ないのですが、当山の某お檀家様のお墓です。
少し形は違いますが、どことなく全体的に似ていると思いませんか。
これは、仏塔の一つ一つの部分の形にそれぞれ独自の意味がこめられているからです。
一番下から行きましょうか。一番下の四角い部分、これは「地」です。大地や硬いもの、動きに対して抵抗するようなものを表しています。その上にあるのが「水」、川は地面の上を流れていますね。水はどんどん変化するものを表しています。その上の三角形が「火」。確かに炎は三角形ですね。松光院殿様のお墓では三角形というよりは逆さまの台形のような形をしていますが、火にもいろいろな形がありますので、勢いのある焚火のような雰囲気です。「火」とは生きる力や情熱を表しています。そしてその上を吹き渡るのが「風」です。逆三角形のような形、松光院殿様のお墓は蓮の華のような形をしています。風にも目に見える形はありませんので、こちらも作った方の感覚が表れているのでしょう。「風」は身軽で自由に成長するものを表しています。最後に一番上にあるのは「空」、これは「そら」ではなく「くう」と読みます。確かに空は私たちの頭の上に広がっておりますが、「そら」ではなく「くう」です。この「くう」というのは、般若心経などではすごく深い意味のある言葉ですが、古い仏教では、「物理的に何もない空間」を表しています。私たちの目の前にあるこの「何もない空間」が「ある」とインドの人は考えていたのです。「ゼロ」の概念を生み出したのはインドの人だと言われていますが、「何もない」が「ある」という考えが、古い時代からインドにはあったのです。
というわけで、昔の仏教ではこの5つの要素が世界のすべてを表しているという風に考えておりました。
五大要素すべての功徳、功徳というのは平たく言うとご利益や恵みのことですが、すべての功徳が満たされている。大地のようなゆるぎ無さ、水のように何にでも変われる柔軟さ、火のような力強さ、風のような自由さ、そして目には見えない「くう」という何か。その全ての恵みをもって、お釈迦様のお骨、ひいては皆様の大切なご家族のお身柄を、いつまでもお守りくださいますようにという願いを込めて、このような形で建てられているのでございます。
ですから、宗派に関係なく、いろいろな場所でこのような形の塔を見ることができます。有名なところですと、京都の五重塔です。建築様式はより華やかですが、この5つの要素を満たしている、という意味で五重塔なのです。京都に行かれた際に思い出していただければ幸いに思います。
昔は回忌ごとに、石造りの仏塔を建てる風習もございましたが、経済的に難しく場所もとる、ということで登場したのが、皆様おなじみの木でできた卒塔婆です。
だいぶ石造りのものに比べてマイルドな形になっています。あんまり凹凸が激しいと字を書くスペースがなくなる、というのは冗談ですが、木造なので意外に折れやすく、東日本大震災の時は折れてしまったこともありました。
よくよくご覧いただけると、石造りの卒塔婆と同じように、一番下が□、その上に〇、その上に△、その上に▽、一番上に○、というような形になっているのがお分かりになるかと思います。
それぞれのパートに文字が書かれていますが、これは「梵字」と申します。先ほども出てきましたインドの古い言葉、サンスクリット語を表す文字です。上から順番に、「キャ・カ・ラ・バ・ア」と読むのですが、意味はそのまま、「空」「風」「炎」「水」「地」です。その下に、「為」という字、これは「あなたのため」の「ため」という字ですが、どなたのどんなご法要のために立てたのか、を表しています。その下にお戒名とご法要のお名前を書かせて頂いております。仏塔のほうも良く見て頂くと同じ字が彫られているのが御覧いただけるかと思います。松光院殿さまのお墓のほうはちょっと削れて見にくいので、実際お参りになった際によろしければご覧ください。

裏側ひっくり返しますと、一番上に点が来て、その下にお皿のような模様が来て、その下に少々間延びしたマークが書かれております。これは3つばらばらの文字ではなく、もともと一つの文字、大日如来を表す梵字の「バン」という字を長く伸ばしたものです。浄土宗のご本尊は阿弥陀仏様なのに、なぜ大日如来という別の仏様の文字が書かれているのかと申しますと、大日如来という仏さまは、この宇宙のすべて、表書きにあるすべての要素をおつくりになったといわれている仏さまだからだとか、お出ましになるときには両隣に、お釈迦様と阿弥陀様をお連れになるからだと言われております。
2年前の「二河白道」というご法話で、右は火の川、左は水の川の間に真っ白な細い道があって、後ろから背中を押してくださるのがお釈迦様、極楽浄土で手招きしてくださるのが阿弥陀様とお話させていただきました。浄土宗ではお二方は大変ご縁の深い仏様なのです。
本日はこの卒塔婆の意味、についてお話させて頂きました。これからお塔婆をお建てになる時に、この5つの要素について思い出していただければ幸いでございます。
さて、先ほど塔婆の一番上には「くう」という字が書かれていて、「なにもない」が「ある」なんてインドの人はすごい発想をお持ちだ、とお話いたしました。
確かに、科学的に考えれば、なにもないところにはなにもないのですが、フランスのサン=テグジュペリという作家さんの書かれた「星の王子さま」という童話に、こんな一節があります。

「かんじんなことは、目には見えないんだよ」。
私はこの言葉はとても大事なことを言っているように思えます。
今日、ここにお集まりくださった皆様も、目には見えない様々なお気持ちをお心の中に持っていらっしゃると思います。まだ、大切な方を亡くされて間もなく、悲しい気持ちの方もいらっしゃるでしょうし、ご自分のお心に何かあって仏様と向き合いたい方、誰かご縁のあった方のためにお祈りしたいという方、お家の代表として、責任感をもってお参りを続けてくださっている方もいらっしゃるでしょう。たまにはお坊さんの話でも聞いてみようかなというお気持ちの方もいらっしゃるかもしれません。大変励みになることでございます。
皆様それぞれのお気持ちというのは目には見えないものかもしれませんが、私はお一人お一人のお気持ちをとても尊いもののように、ありがたく感じます。人間の私ですらそうですから、阿弥陀様は尚更、みなさまお一人お一人の気持ちが、目には見えなくともどれ程尊いものかお分かりでいらっしゃいます。阿弥陀様は、皆様がお念仏をして、お名前を呼んでくだされば、かならず皆様お一人お一人の気持ちをお汲み取りくださり、そして極楽浄土におられるご先祖様、大切なご家族に、皆様のお気持ちを伝えてくださる。そういう仏様でございます。こちらが心を手向ければ、必ず伝わる場所が極楽浄土という場所なのです。
さて今日はお彼岸ということで、このお彼岸というのは日本独自の風習なのですが、太陽が真東から上って真西に沈むということで、太陽の沈む方角に向かってお念仏をしていただくと、それがまっすぐ西方極楽浄土、西のかなたにある極楽浄土に届くという日でございます。
みなさまのご家族の中には、だんだんお体やおみ足の自由が利かなくなってきて、今日はちょっと来られない、という方もいらっしゃると思います。そういった方にはぜひ皆様がお帰りの後、
それでは、本日も最後に住職の合図でお十念をして、お彼岸法要の終わりといたしましょう。ちなみに厳密にいうと西はご本尊の左後方なのですが、今回は阿弥陀様がいらっしゃる場所ということで、ご本尊の方に目を向けて頂き、また目線だけでなく、皆様それぞれ、まっすぐにお心も向けて頂いて、ご一緒にお念仏をお唱え頂ければと思います。


